※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
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優勝=4年ぶり2回目/西埼玉少年野球(飯能支部)
■決勝
西埼玉 532=10
山 野 240=6
【西】金子、歩浜、杉山-村井
【山】伊藤、高松、三浦、樋口-樋口、高松
西埼玉少年野球からは、4年連続でNPB12球団ジュニア(年末にトーナメント大会)が生まれている。この秋の県新人戦は4年前に初優勝。昨年12月にはポップアスリートカップの全国ファイナルトーナメントに出場(関東第二代表)して初戦突破と、近年の躍進が目覚ましい。
「死ぬんじゃないかと(笑)」。1年前は病気を患い入院中だった西埼玉・綿貫監督が、復活しての4年ぶりVに「感無量です!」
一方の山野(さんや)ガッツも、昨年末は関東第一代表としてポップ全国ファイナルに出場(初戦敗退)。国内最大のショッピングモール、レイクタウンの近郊にあり、20人規模の学年単位で活動するマンモスチームだ。率いる瀬端哲也監督は、昨年末のポップ全国ファイナル後に、現5年生たちの代を引き継いだ。
大激戦区・越谷予選から打ち勝ってきた山野。瀬端監督は4年前の夏の全国予選準決勝で抽選負けの不運も経験
西埼玉は選手24人でうち12人が最上級生の5年生。山野は19人でオール5年生。準決勝はともに申し分のない勝ち方をしており、関東切符をかけた決戦は好勝負が予想されたが…。
両軍で3回19四死球
賛否が分かれるはず。万人が納得する結論が出ることもないだろうし、当事者の両指揮官は踏み込んだ発言は避け、大人の対応に終始した。それでも、ジャッジのあり方について一考させられる大一番だった。
1回表、山野は4連続四球などで5失点。瀬端監督がタイムもとったが…
わずか3イニングでタイムアップ。地域予選の序盤ならまだしも、県の王者を決める一戦で両軍合わせて19四死球(申告敬遠1)、つぎ込んだ投手は7人(同一選手含む)を数えた。
1回表は無安打ながら、6四死球を選んだ西埼玉少年野球が5点を先取。そしてその裏は、山野ガッツがやはり無安打ながら、4四死球で2点を返した。
準決勝は4回を無四球投球の西埼玉・金子主将が1回裏に4四死球。たまらず内野陣が集まる
双方の初回の守りには失点につながる失策もあり、ミスがより少なかった西埼玉に分があったのは間違いない。一方で、捕手の構えたミットにそのままボールが収まっても、球審の手が上がらないシーンも少なくなかった。同日の準決勝では、両軍ともに打力を存分に発揮していただけに、拍子抜けした感も否めないスタートだった。
人間のやることに完璧はないとはいえ、審判によるジャッジの差(甘い・辛い)は本来、歓迎されるべきことではない。だが、決勝(担当の球審)はストライクゾーンが狭いということを、西埼玉の綿貫康監督は過去の経験などから察知していたという。
「学童野球の試合は、球審の影響というのはものすごくありますよ。決勝は5年生には厳しいだろうなというのは事前に分かっていましたので、選手たちには『高めのボールは絶対に捨てろ!』と徹底。あのへんはみんな好きな球なんだけど、よく見て選んで、つないでくれましたね」
「高めに手を出すな!」(綿貫監督)。西埼玉は徹底して選んでつないだ。打者は2四死球の三番・金子主将
西埼玉は2回表も5四死球で3得点。満塁から六番・村井碧波がチーム初安打となる中前タイムリーを放つと、連続押し出しで8対2とリードを広げた。
対する山野も負けていない。2回裏、左前打から暴投で二進した中井悠翔を、二番・樋口芳輝がライト線への二塁打で本塁に迎え入れた。
2回裏、山野は一番・中井が左前打(上)で出ると、続く樋口の右翼線二塁打(下)など3本のタイムリーで4点
「いつも通り、来た球を素直に打ち返すことを心掛けました。もっと、お互いにボコボコに打ち合いたかったです」と樋口。四番・増田慎太朗、六番・伊藤大晴も単打でつなぎ、山野が6対8と2点差まで詰め寄った。
苦しむ投手陣を懸命にリードした西埼玉の正捕手・村井は打っても2安打1打点
西埼玉に会心のクリーンヒットが生まれたのは3回だ。準決勝で3打数3安打の四番・白垣大耀が、一死二塁から左中間を破る適時二塁打を放った。「努力の男、白垣が最後に良いところで打ってくれました」と綿貫監督。さらに村井の2安打目などで満塁とし、押し出しで10点目を奪うと、2回二死から救援していた右腕・杉山拓海が3回裏を3者凡退に終わらせたところでタイムアップとなった。
西埼玉は3回表、一死二塁から四番・白垣が左中間へ適時二塁打
〇西埼玉少年野球・綿貫康監督「4年前の決勝も初回に7得点。ダブルの2試合目は投手も疲れているし、初回の入りが大事なんです。先攻をとりたくて、じゃんけんは負けたけど相手が『後攻』を選ばれたのでシメタ! と(笑)。勝つこと最優先で自分勝手をせず、つないでくれたチームワークの勝利ですね」
●山野ガッツ・瀬端哲也監督「打つには打ちましたけど…ウチは10点取られたら11点取るというチーム。投手陣がちょっと踏ん張りきれなかったかな。(球審のジャッジは)言っても仕方ないです。相手も条件は一緒で、ウチがそれに対応できなかっただけです」
準優勝/山野ガッツ(越谷支部)
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夏の悪夢を払拭して涙
かねこ・るい金子 塁
[西埼玉5年/投手兼一塁手]
県制覇とはいえ、新チームの船出から間もない秋である。それでも金子塁は、最後の夏を終えた6年生のように一人、号泣した。堰を切ったようにこぼれる涙。その理由は重い呪縛から解かれた安堵だったという。
「6月の県大会準決勝もここ(東松山市営球場)でやって、ボクがエラーして負けてしまって。その印象があるので、決勝は緊張していました」
忘れようにも忘れられないミスだった。あと2つ勝てば、全日本学童大会初出場という県準決勝。6対1のリードで迎えた5回裏の守りだった。五番・左翼でスタメン出場していた金子は、ピンチで飛んできた飛球を落としてしまい、同点に(記録は本塁打)。さらに1点勝ち越されてチームは敗北。「オマエのせいじゃない」と口々に声を掛けてくれた6年生たちの想いも背負い、新チームをエース兼主将として引っ張っている。
準決勝は4回無安打無失点の快投に、左打席から逆方向へのエンタイトル二塁打など2安打で勝利に貢献。決勝は2四死球と内野フライ、投げては2回で5四死球6失点(自責4)と苦しんだが、仲間に救われた。
「チーム一体となって、やることをやってきたので優勝につながったと思います」
本塁打はすでに30本超。スローイングの指導にも定評のある指揮官の下で体得した投球フォームは、安定していて美しい。
「関東大会はピッチングは初回の入り、バッティングはセンター返しを意識していきたいと思います」
4年前の関東大会は初戦で豊上ジュニアーズ(千葉、同大会優勝)に敗北。今回は全員で頂点を奪いにいく。
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打って取り戻した笑顔
いとう・たいせい伊藤大晴
[山野5年/遊撃手兼投手]
センターに抜けようかというゴロをギリギリでグラブに収めるや、勢いも利した一塁送球でアウトに。4-6-3の併殺も決めるなど準決勝で堅守を披露した遊撃手が、続く決勝は先発のマウンドで苦しみ抜いた。
「キツかったです…」
緩急の投球を持ち味とするが、頼みのスローボールが入らない。捕手のミットに投げ込んでもストライクとならず、ついには膝に手を置くシーンも。無安打でも6四死球、味方のミスもあって初回で5失点すると、たまらずベンチを出て涙を流していた。
しかし、そのまま終わるほど、伊藤大晴は柔ではないし、腐るほど擦れてもいなかった。2回裏、二死二、三塁の好機で逆方向へきれいに打ち返すと、これが2点タイムリーに。一塁ベース上で白い歯を見せ、ベンチに向かって右手を突き上げた。
「絶対に打ってやろうと、死ぬ気でバットを振りました。うれしかったです」
5点取られたら6点取る、というチームを象徴する一打でもあった。あこがれは地元・埼玉の名遊撃手、源田壮亮(西武)。やられてもやり返せる5年生、伊藤も名手への階段を上っていくことだろう。
「きょうは忘れられない1日になりました。ショートが好きですけど、ピッチャーもまだやっていきたいです」